「風炉(ふろ)」や「釜(かま)」をよく見ると、どちらにも“足”がついています。
しかも、どちらも三本足。でも――その配置がちょっと面白いのです。
この記事では、茶道具の足の向きに隠された美しいバランスと、
陸羽の『茶経』にも登場する“哲学的な意味”まで、やさしくご紹介します。
🍃 風炉の足と釜の足、どう向いているの?
風炉の足は三本あります。
三本足は「一本」と「二本」のバランスで配置されており、
茶席でお点前をする人から見て、一本足が手前にくるように置きます。一方で、風炉の上にのせる釜(羽釜)のほうにも小さな足がついていて、
こちらはその逆。
二本の足が手前にくるように置くのです。茶道では、このように“風炉と釜が対になって向かい合う形”をとります。
一本と二本が交差する――そのわずかな非対称の中に、
茶道具ならではの「美しいバランス感覚」があるのです。
🌿 なぜ三本足なの? 実用と美の両立
まずは実用面から見てみましょう。
三本足は、どんな場所に置いても安定しやすい形です。
四本よりもわずかに傾いた床でもガタつかず、畳の上にも自然になじみます。
茶の湯の世界では「実用性の中に美がある」という考え方が大切にされており、
この三本足もまさに“用の美”の象徴です。
🔥 古代の思想から見る「三本足」の意味
実は、風炉の三本足には深い哲学的な意味もあります。
唐の時代に陸羽が書いた『茶経』という書物の中で、
風炉の足にはそれぞれ次の三つの文字を刻むようにと記されています。「坎(かん)」=水 / 「离(り)」=火 / 「巽(そん)」=風
この三つは、中国の『易経(えききょう)』に出てくる「八卦(はっけ)」の一部で、
自然のエネルギーを象徴する言葉です。
- 上:坎(水)=釜の中の湯
- 中:离(火)=風炉の炭火
- 下:巽(風)=火を起こす風
つまり、風炉の三足は水・火・風という自然の調和をあらわし、
小さな茶室の中に宇宙のバランスが凝縮されているのです。
🌸 五行の調和と、心身を整える力
陸羽はさらに「体は五行を均しくし、百疾を去る」と書いています。
風炉には五つの要素――
金(風炉の金属)・木(炭)・火・土(灰)・水(釜の湯)――がすべて備わっています。
この五行の調和こそ、
茶を点てる行為が“心と体を整える時間”とされてきた理由のひとつです。お茶を点てるという一見小さな動作の中にも、
宇宙の循環と人の心の安らぎが重なっている――
そんな深い世界が、風炉の三本足には込められています。
🍂 まとめ|形の中に宿る調和のこころ
一本と二本、三本の形。
風炉と釜は向かい合いながら、互いに支え合うバランスを保っています。
その形の中にあるのは、目に見えない“調和の心”です。茶道具を通して、
「ものの配置」や「かたち」からも日本の美意識を感じてみませんか。
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